グインサーガ復興論

栗本薫さんの遺志に基づいてグインサーガの完結を願うひと

グインサーガは死んだのか?

 

グイン・サーガ130 見知らぬ明日

グイン・サーガ130 見知らぬ明日

 

 2009年5月26日火曜日、栗本薫中島梓)さんのご逝去をもって、ご本人の手による新作、その他著作の続篇が絶たれてしまった。あれからもう11年が経つ。

個人の執筆による世界最長の物語(未完)

 1979年以来、30年もの長きにわたり累計3300万部発行された「グインサーガ」は本篇130巻、外伝22巻の計152巻、累計153冊(外伝17巻は上下2冊)で未完となった。公式のハンドブックや関連書、ファンブックは合計10冊が刊行されている。詳細はWikipediaに任せたい。

 100巻完結をめざしながらとうとう100巻では終わらず、作者でさえ完結は200巻か300巻になろうかとあとがきに記されていた進行具合は、おそらく構想全体の半分〜三分の一程度だったと思われる。

 後述するが、いずれ世界線が交錯する予定の「新・魔界水滸伝」が早々に4巻で中断してしまった分、さらに完結が遠のいていた可能性も否めない。

 そんな前代未聞の大長編でありながら、記念すべき100巻は全国各地の書店でベストセラー入りするなど、21世紀になって本格的な不況に陥った出版界のなかでは安定した売上と部数を誇る、希有なシリーズだった。 

巻を重ねるごとに増えたアンチ?

 ネット上では巻を重ねるごとにアンチが増えたと言われているが、実際には全国の主要な書店では新刊が発売されると必ず文庫の新刊コーナーに平積みされ、一定の売上を誇っていた。むしろ、逝去後に刊行開始された「グインサーガワールド」シリーズや本篇131巻以降、外伝23巻以降の続篇プロジェクトがそもそも書店で平積みされているのを私は一度も目にしたことがなく、往年のファンとしてはそれも悲しい。

 公称3300万部を発行冊数153で割れば、概ね各巻の平均部数を約19万部と推察できるが、私が関係者から直々に伺った記憶では1990年代に本篇1巻あたり公称25万部だった。巻が進むにつれ脱落者が増え、結果的に部数も減ったとはいえ、少なくとも数十万人のファンが彼女の死、そしてグインサーガの未完を嘆き、悼み、悲しんだことは間違いないだろう。 

ひとは二度死ぬ

 ひとは二度死ぬ、と言われる。一度目は物理的な肉体の死、そして二度目はありとあらゆる人から記憶が失われることで訪れる永劫の死。

  極めて個人的な死生観に基づく見解ではあるが、私は栗本薫そして中島梓という人物はまだ単に物理的現象としての生命活動、人生を終えたに過ぎないと思っている。

 残された多くの著作や表現は多くの人々の心に刻まれ、また新たな読者を開拓することもあるだろう。ギネスが認定しようがしまいが個人で世界最長の物語を描いた事実は失われることがない。日本の出版史、文芸誌でいえば紫式部に匹敵する女性長編作家として後世に語り継がれ、むしろ永遠に生きるのではと、私は思う。

 それに、いずれこの偉大さが世界で大きく話題になり、称えられる日々が来るかもしれないし、そのことを心から願っている。

グインサーガの復興を心から願って

 自然の摂理で花の一生を思えば、土に撒かれた種が芽吹き、成長し、大輪の花を咲かせたあと枯れ落ち、そしてまた土に還り、新たな生命が誕生するはずだ。

 栗本薫さん、そしてグインサーガは一度、死んだ。その後、続篇プロジェクトが開始されたが、少なくとも私には成功しているようには思えないし、どうやら先行きも怪しく思われる。

 このままでは再び、グインサーガが死んでしまうのではないか。

 そんな危機感から、私はグインサーガ復興論を記すことにした。